慰謝料請求にかかる法律論 1 慰謝料とは
実務上、慰謝料請求を検討する機会は少なくありませんが、民事紛争における金銭賠償が問題となる事案全てにおいて「慰謝料が認められる」わけではありません
慰謝料請求が「認められるか」また、認められるとしても「どの程度の金額になるか」を具体的に検討する前提として、そもそも「慰謝料とは何か」という基本的な部分から整理しましょう。
1 財産的損害と精神的損害
慰謝料は「精神的損害」に対する賠償を言います(加藤一郎「不法行為[増補判]228頁」)
精神的損害と「対となる概念」として「財産的損害」があります。
財産的損害とは、「所有物の滅失」「債権の消滅」等の財産権に対する損害を言います
一方「精神的損害」とは、「財産以外」の損害(肉体的苦痛・悲嘆・恥辱等の精神的苦痛)を言います。
民法710条は「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合はまたは他人の財産権を侵害した場合のいずれかであるを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」と定めており、財産的損害にのみならず、精神的損害も広く賠償の対象としています。
2 財産的損害と精神的損害を「区別する意義」
財産的損害と精神的損害を区別する意義は以下の2点があげられます
①慰謝料は「裁判官の自由裁量」で算定される(大判明治43年4月5日民録16輯273頁)
②慰謝料請求権は「一身専属的権利」であるから「譲渡・差押が出来ない」
人格的利益(生命・身体・名誉等)の侵害の場合に、慰謝料は認められます。
一方、財産的損害については、財産的損害の回復によって「通常は精神的損害も回復」されると考えられるため、慰謝料が認められる場合は「限定的」とされています。
したがって「交通事故における物損」や、「建築瑕疵における建物の損傷」について、慰謝料は「原則として認められない」といと考えられる傾向にあります。
財産的損害の場合に「慰謝料を認めた例外」事例としては、以下の裁判例が挙げられます。
【大判明治43年6月7日刑録16輯1121頁】
父祖伝来の土地を犯罪(横領)によって失った場合は、「精神上の苦痛」に対して「慰謝料を請求する事が出来る」とした
なお、上記事例以外にも、建築瑕疵の事例のように「個別の事情」によっては、財産的損害の場合にも「慰謝料が認められる」ものもありますので、例外を一切認めないというものではないことにご留意ください。
3 慰謝料の意義
前記のとおり、慰謝料は「精神的損害」に対する賠償であり、非財産的損害に対する賠償金としての意義を有します。
慰謝料は前述のとおり「民710条」において規定されており、「財産以外の損害」すなわち「非財産的損害」についても、加害者に賠償責任を認めています。
4 債務不履行責任への類推適用
なお、民法710条では、債務不履行責任においても「類推適用」されるため、不法行為責任だけで問題となるわけではありません。
(最二小判昭和38年12月20日民集17巻12号1708頁)