不貞慰謝料請求訴訟における典型的な主張と反論
不貞行為の不存在
この種の訴訟において最も分かりやすい類型としては、Y(浮気相手)がX(浮気された配偶者)の主張するA(配偶者)Y間の不貞行為の存在を否認した場合であり、実際の裁判例としても数が多いのが実情です。
この場合、X(被害者)としては、Y(浮気相手)が否認した以上、自らの主張するAY(浮気している者同士)間の不貞行為の存在及びその内容を立証するための証拠を裁判所に提出する責任があり、その責任を果たしていないと裁判所から判断されると請求棄却の判決が下されることになります。
つまり、証拠のない水掛論では、立証責任を負う原告(X)は敗訴するほかありません。
ですから、「自分や周囲が納得いく証拠」ではなく、あくまでも「裁判所」「弁護人」が納得のいく証拠が必要ということになります。
この点は、「ほとんどの探偵事務所」が認識していない誤った点でございますので、「浮気調査をご依頼」される際にはご注意くださいませ。
故意・過失の不存在
次にYがAとの不貞関係を認めつつも、「自分には故意・過失がなかった」と主張して争う場合です。
不法行為に基づく慰謝料請求の法的根拠が民法上の不法行為(民法709条)である以上、加害者たるYに故意または過失がなければ、Yは不法行為責任、すなわち慰謝料支払義務を負いません。
まず第一に、故意とは基本的には事実の認識なので、いわゆる違法性の意識までは要求されません。
すなわち、Yの故意の対象は、Aに配偶者がいること(ないしはXA間の婚姻関係が破綻していないこと)という事実であり、その事実の認識を超えて、適法性の意識(不法行為は悪いことであり、自分はその悪いことをしているという意識)までは故意の要件としては要求されないということになります。
したがって、Yがこの種の訴訟において「不貞行為が悪い行為であるとは知らなかったのだから自分には故意はない。」と反論したとしても、それは、殺人犯が「人を殺すことが悪い行為であるとは知らなかった」と言っているのと同じであり、いわゆる法律の錯誤として故意を阻却しないということになります。
イギリスの諺にも「事実の不知は許されるが、法の不知は許されない。」というのがあります。